錫作家 小泉均とその作品 その6
2015/11/04
「普段の生活のなかで使い込まれてこそ食器です。日本がもつ侘び寂びという感性を大切にして、生活に馴染むような作品づくりを心がけています」
生活と器。
小泉氏から何度も発せられた言葉です。
錫の器は確かに高価です。
近年では錫の産出量が減ってるため、
余計にその希少性は高くなっています。
だからといって観賞用の特別な器ではなく、
食器として多くの人に迎えてもらいたいというのが
小泉氏の願いです。
小泉氏が制作を進めるとき、
いつも自分に問いかけることがあります。
錫がもつ輝きは美しい。
電灯がまだ普及していない時代であれば、
その輝きは夜になっていっそう増していったに
違いないありません。
しかし、
現在は格段に明るくなりました。
明るい食卓でピカピカと輝く錫はどうでしょうか。
きらびやかすぎる器が自己主張すれば、
料理から主役の座を奪ったりはしないでしょうか。
食卓はあくまでも家族や友人・知人が集まって、
料理を味わい、時間を共有し、会話を楽しむ場所。
そうした場所で、
器だけが目立ってはどうなるのでしょう。
作品をつくりながら、
小泉氏はいつもこう自問するそうです。
そのため、
小泉氏の器は自己主張しすぎないよう
輝きが抑えられています。
食卓で邪魔にならないよう、
かと言って存在感を失われないよう、
器の大きさ、
ツヤの消し具合に細心の注意を払います。
上品で柔らかく、落ち着いている器。
趣味人で知られる伊藤邦英さんは「(食器としてつくられた器は)使い込んでこそ素晴らしさがわかるもの」と語っています(「婦人画報」2011年12月号より)。
だとすれば小泉氏の器は、
どれも使い込まれることを望んでいるような食器ばかりです。
生活に調和して、
使う人の感性を豊かに爽やかにする
小泉氏の錫器たち。
作り手の思いが、
素材感やフォルム感にまで現れていました。
錫作家 小泉均とその作品 終わり